2010年4月28日水曜日

“Real Pocket size PC”の実力はホンモノか?――新「LOOX U」を徹底検証する

 国内メーカー各社が続々と投入している2010年PC春モデルの中でも、とりわけ注目度の高いミニノートPCといえば、富士通の“Real Pocket size PC”こと、新型「FMV-BIBLO LOOX U」だろう。

【拡大画像や他の画像】 【表:「FMV-BIBLO LOOX U」の仕様】

 前モデルからAtom Zベースのアーキテクチャを継承しつつ、ジャケットの内ポケットにも入る リネージュ2
約495グラムの小型軽量ボディに、マルチタッチ対応の5.6型WXGA(1280×800ドット)ディスプレイ、本体幅ギリギリまで敷き詰めたキーボード、両手持ちで使いやすい場所に配置したポインティングデバイスを備え、デザインも360度こだわるなど、見どころ満載の1台だ。

 PC USERでは既に試作機でその変更点をチェックしたが、今回は製品版同様の店頭モ
デルと直販モデルを入手できたので、試作機でテストできなかったパフォーマンスや静音性、放熱性といった部分も含め、総合的な実力に迫っていきたい。

●店頭モデルとハイスペックな直販モデルを徹底比較

 テストに使用したのは、Atom Z 520(1.33GHz)と30GバイトSSDを搭載した店頭販売向けカタログモデル「U/G90」、Atom Z 550(2.0GHz) rmt
と62GバイトSSDを備えた直販専用カスタムメイドモデル「U/G90N」の2台だ。カスタムメイドモデルは富士通の直販サイト「WEB MART」から購入でき、CPUグレード、SSD容量、OSなどを選べるが、今回はカタログモデルとの差を見たいので、ハイエンドの構成とした。

 ボディカラーはU/G90がルビーレッド、U/G90NがBAPE CAMO BLACKだ。BAPE CAMO
BLACKは、若年層を中心に人気があるブランド「A BATHING APE」とのコラボレーションモデル専用カラーとなっており、2010年2月28日までの期間限定で販売中だ。そのほかの仕様は2台とも変わらない。  
 
●各種パフォーマンステストの結果は?

 まずは、パフォーマンステストの結果から見ていこう。Windows 7標準のシステム評価機能である
Windowsエクスペリエンスインデックスと、総合ベンチマークテストのPCMark05およびCrystalMark 2004R3(ひよひよ氏作)の各スコアを下に示した。なお、各テストはACアダプタを接続した状態で実施している。

 CPUやグラフィックスのスコアは、Atom ZとIntel SCH US15Wを採用したシステムとして標準的な結果となっており、CPUクロックの差によるスコア
の優劣も予想通りだ。2台ともシステム全体の性能バランスは、SSDが突出しているため、HDDのスコアが最も良好な結果となった。

 総合ベンチマークテストで良好な成績だったSSDの性能を詳しくチェックするため、PCMark05のHDD関連テストとCrystalDiskMark 2.2(ひよひよ氏作)も実行した。2台が内蔵するSerial ATA SSDは同じシリーズの容量が違うモデ
ルなので、パフォーマンスに差はほとんどない。SSD自体のスペックはいずれもリード速度が180Mバイト/秒、ライト速度が70Mバイト/秒となっている。

 テスト結果を見ると、チップセット接続時におけるUltra ATA変換のボトルネックにより、Serial ATA SSDのパフォーマンスが最大限発揮できていないことが分かる。しかし、スコアが落ち込みがちなラン
ダムライトの性能も安定しており、ミニノートPCのデータストレージとしては十分高速といえる。

 LOOX Uの用途とは少し外れるが、3Dグラフィックス性能を評価するテストの3DMark05とFINAL FANTASY XI Official Benchmark 3も実行した。LOOX Uのグラフィックス機能はほかのAtom Z搭載機と同様、Intel SCH US15Wチップセットに統合されたグラフィックスコ
アのIntel GMA 500を採用するため、低いスコアにとどまっている。

 システム全体のパフォーマンスが分かったところで、次のページでは実際にWindows 7の起動や終了にかかる時間を測定する。

●Windows 7の各種動作時間に差はあるか?

 Windows 7の各種動作に要する時間をストップウォッチで計測した。計測したのは、Windows 7の起動
、スリープへの移行と復帰、休止状態への移行と復帰、シャットダウンの各動作にかかった時間だ。Windowsの起動時間は電源ボタンを押してから「ようこそ」画面が出るまでの時間と、デスクトップ画面が表示され、あらかじめスタートアップに登録しておいたテキストファイルが起動するまでの時間の2段階で計測した。

 LOOX Uの設定は基本的にデフォル
トで、ACアダプタを接続した状態だ。各動作時間にはバラツキがかなりあるので、計測は10回以上行い、異常な数値が出た場合はそれを排除してから平均値を算出している。

 結果は右のグラフに示した通りで、CPUが高速なU/G90Nのほうが全体的に高速だった。実際の操作感についても、Atom Z520(1.33GHz)搭載のU/G90はWindows 7やアプリケーションの
動作がやや緩慢なのに対し、Atom Z550(2.0GHz)搭載のU/G90Nではかなり改善される。店頭でU/G90に触れてみて、遅いと感じるならば、カスタムメイドモデルでCPUグレードを迷わず上げることをおすすめしたい。

 もっとも、コンパクトボディのLOOX Uでは、一般的なPCのようにすばやくタッチタイピングしたり、高速かつ正確にマウスポインタを操作
したりと、サクサク使うことは難しい。ある程度使い慣れても、キーボードの入力はミスしないよう気をつけながら行うことになるほか、本体を両手で持って親指入力する場合は入力速度がもっと下がる。また、ドットピッチの狭い画面をよく狙ってタッチしたり、ポインティングデバイスを細かく操作する必要があるので、ユーザーの操作もゆったりした速度になりが
ちだ。そのため、Atom Z520(1.33GHz)の多少のんびりしたレスポンスでもさほど気にならない場合もある。

 なお、デフォルトの状態ではスティックポイントを押下したことで左クリック動作になるプレス機能が過敏に反応し、操作ミスを誘うため、この機能はオフにしたほうがいいだろう。同時に、ポインタの速度を少しだけ下げると、小さなボタンやメ
ニューを選択しやすくなる。また、クリック方法は「ポイントして選択し、シングルクリックで開く」に設定されているが、慣れないうちは「シングルクリックで選択し、ダブルクリックで開く」に変更したほうが操作ミスを防げるはずだ。

●新型LOOX Uの動作再生能力は?

 外出先などでメディアプレーヤーとして活用することを想定し、動画再生
能力についてもチェックした。まずはWindows 7標準のWindows Media Player 12で1080pのWMVファイル(マイクロソフトの公式サイトで配布しているWMV高精細コンテンツ)を再生したところ、CPUクロックが高いU/G90Nではたまにコマ落ちする程度で大きな問題もなく視聴できた。U/G90はたまに映像がつかえることもあるが、内容は確認できるレベルだ。

 
次にビデオカメラで撮影した1080i/1440×1080ドットのAVCHDファイルをWindows Media Player 12で再生したところ、U/G90Nでは少しコマ落ちするが十分視聴できた。U/G90も同じ傾向で視聴に大きな問題はない。AVCHDファイルの再生ではCPU負荷率が低く抑えられており、Intel GMA 500によるH.264の再生支援機能が効いていると思われる。ちなみにCPU負荷率の画面は
掲載していないが、MPEG-2のSD映像は2台ともスムーズに再生できた。

 次に、YouTubeやニコニコ動画のコンテンツ視聴も試してみた。YouTubeでは、480pの動画ならば実用レベルで視聴できるが、720pや1080pのHD動画は映像も音声も途切れてしまうことが多く、再生が困難だった。ニコニコ動画については、標準的な画質の動画はそこそ見られるが、コメ
ント数が多いと再生がつまづきがちだ(特にU/G90ではその傾向が大きい)。コメント数が膨大な動画や高画質の動画は再生がかなり厳しい。

 なお、LOOX Uが搭載する1280×800ドット表示の5.6型ワイド液晶ディスプレイは、輝度とコントラストが十分確保されているうえ、ドットピッチが非常に狭いため、動画をかなり精細に表現できる。発色は少しだけ緑
がかっており、光沢液晶パネルへの映り込みも多少あるが、視野角がかなり広いので、ラフな姿勢で画面をながめるように見ても視野角の狭さは気にならない。ミニノートPCの液晶ディスプレイとしては、解像度、画質ともにかなり健闘している。

●省電力設定でバッテリー駆動時間はどう変わる?

 モバイルPCにとって重要なポイントの1つ、バッ
テリー駆動時間も計測した。テストにはバッテリー駆動時間計測ソフトのBBench 1.01(海人氏作)を使用し、10秒ごとにキーボード入力、60秒ごとに無線LAN(IEEE802.11g)によるインターネット巡回(10サイト)を行うように設定している。

 省電力設定の違いによるバッテリー駆動時間の差を確認するため、今回はLOOX Uの省電力設定を3段階に変えてテ
ストを行った。1つ目の設定は電源プランが「バランス」で液晶ディスプレイの輝度が最大、2つ目の設定は電源プランが「バランス」で液晶ディスプレイの輝度が40%、3つ目の設定は電源プランが「省電力」で液晶ディスプレイの輝度が28%だ。

 さらに、3つ目の設定では独自の省電力ユーティリティも併用し、無線LAN以外のデバイスは省電力設定を適用
にした。具体的には、音声がミュート、WiMAX、Bluetooth、メモリカードスロット、有線LANが無効、リフレッシュレートが40Hz(32ビット色)の設定となっている。

 テスト結果は、バランス+輝度40%の設定で2時間弱の駆動時間だった。省電力設定を活用することでバッテリー駆動時間は15分程度延ばせたが、標準バッテリーは2セルで容量が小さいことも
あり、劇的な効果は見られない。また、スペックの違いによるバッテリー駆動時間の差はわずかだった。

 モバイルでの活用を考えると、少々心細い結果ではあるが、オプションとしてLバッテリーが用意されていることに注目したい。標準バッテリーの容量は7.2ボルト 1800mAh、公称の駆動時間は約4時間だが、Lバッテリーの容量は7.2ボルト 3800mAh、公称
の駆動時間が約7.8時間となる。したがって、Lバッテリーを装着すれば、このテスト結果の2倍程度まで駆動時間を延ばせるだろう。

 ただし、標準バッテリーの代わりにLバッテリーを装着すると、ボディの厚みは約7.8ミリ増の約31.6ミリになり、重量も約117グラム増の約612グラムに増える点は覚えておきたい。LOOX Uがウリとするポケットに入るサイズの
本体を維持したまま、バッテリー駆動時間を改善したいならば、標準バッテリーのスペアをいっしょに持ち歩くのも手だ。

●コンパクトボディの放熱性は?

 小型軽量なPCで気になりがちなボディの発熱もチェックした。動作中のLOOX Uを樹脂製のデスクに置き、ボディ表面の温度を放射温度計で計測した。計測条件は、ACアダプタに接続し、
Windows 7の起動から30分間アイドル状態で放置した場合と、そこからシステムに高い負荷がかかるPCMark05のCPUテストを30分間実行し続けた場合の2パターンだ。

 LOOX Uの電源プランは「バランス」、液晶ディスプレイの輝度は最大、ワイヤレス通信機能はオン、音量は半分(ヘッドフォン接続)とした。スクリーンセーバーはオフにし、アイドル状態か
ら一定時間経過しても液晶ディスプレイの表示やSSDの電源がオフにならないように設定している。

 ボディの温度は、キーボードの左半分/右半分、スティックポインタ、左右のクリックボタン、ボディ底面の左半分/右半分を計測した。各部で最も高温になる部分を探して、温度を計っている。テスト時の室温は約24度だ。

 計測結果を見ると、
アイドル時ではCPUクロックの低いU/G90のほうが低温だったが、高負荷時ではなぜかCPUクロックの高いU/G90Nのほうが低温になり、アイドル時より冷えた部位もあった。これは内蔵ファンの制御が大きく影響しており、U/G90Nは高負荷時にファンが勢いよく回転することで十分に冷却され、結果として温度が下がったものと考えられる。

 今回テストした
限りでは、極端に発熱する部位はなく、高負荷時でもボディ全体の温度があまり上がらないため、両手で抱えて操作している最中に不快な熱を感じることはなかった。総じて、放熱性に不満はない。

●ACアダプタ接続時とバッテリー駆動時で変わる静音性

 放熱性と密接に関係する動作時の騒音についても調べた。LOOX Uを樹脂製のデスクに置き、一
定の距離から騒音計で騒音レベルを計測した。騒音計のマイクは、机上での使用時におけるユーザーの耳の位置を想定し、ボディ中央から約30センチ離し、設置面から約50センチの高さに固定している。室温は約24度、環境騒音は約28デシベル(A)で、周囲の雑音がほとんど聞こえない静かな部屋でのテストだ。

 計測は発熱テストと同様、ACアダプタに接
続し、Windows 7の起動から30分間アイドル状態で放置した場合と、そこからシステムに高い負荷がかかるPCMark05のCPUテストを30分間実行し続けた場合の2パターンで行った。電源プランは「バランス」だ。

 計測結果は左のグラフに示した通りだ。LOOX Uはファン制御をかなり細かく行っており、アイドル時でもファンが回転しない状態と低速で回転する
状態が交互に発生した。ファンが回転しない状態では当然ほぼ無音の状態となるが、ファンが低速回転しても、U/G90の場合は環境騒音に溶け込んでしまい、気にならない程度だった。一方、CPUクロックが高いU/G90Nでは、それより少し大きめの風切り音が鳴ることもあった。

 高負荷時でも状況に応じてファンの回転数がかなり変動し、2台とも32?37デシ
ベル程度の範囲で騒音レベルが推移していた。積極的にファンを使って放熱するようで、一度高速回転し始めると、大きめの風切り音が気になってくる。

 ちなみに、バッテリー駆動時はファン制御をACアダプタ接続時ほどアグレッシブに行わないようで、ファンがあまり回転しなくなる。バッテリー駆動時で低負荷の場合、ファンが回転しないことも少なく
なかった。

●Windows 7のフル機能をポケットサイズで持ち歩きたいユーザーへ

 今回は各種テストを行うことで、新型LOOX Uの実力を見てきたが、ジャケットの内ポケットに入れて持ち歩けるほどの小型軽量ボディと360度こだわったデザインを両立しながら、使い勝手や放熱面もしっかりしており、フルモデルチェンジした1世代目の製品としては
、完成度が高いという印象を持った。

 ポケットサイズに横16ミリピッチのキーボードと高解像度液晶ディスプレイを詰め込み、マルチタッチを含めたWindows 7の新機能まで網羅した欲張りなミニPCに仕上がっており、その凝縮感がたまらないというユーザーは少なくないだろう。場所を問わず、Windowsのフル機能が使える小型軽量のPCを探しているユーザ
ーにとっては、非常に有力な選択肢といえる。

 最後に1つ気になったところを挙げるならば、今回から対応したマルチタッチ機能という特徴を最大限に生かせていないことだ。前述の通り、LOOX Uは5.6型ワイドと小さな画面で1280×800ドット表示を実現している関係でドットピッチが非常に狭く、細かいタッチ操作を指で行うのは難しい。タッチ対応アプリ
ケーションも用意されてはいるが、もともと大きな画面で使うことを想定した作りなので、LOOX Uで積極的に使いたいとは思わなかった。

 今後は、LOOX Uの小さな高解像度ディスプレイでもマルチタッチによる恩恵が十分に得られるような独自アプリケーションやユーザーインタフェースなどの工夫があれば、アドバンテージをより明確に打ち出せるのでは
ないだろうか。【前橋豪(撮影:矢野渉)】

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トサイズPC──「FMV-BIBLO LOOX U」
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引用元:エミルクロニクル(Econline) 総合サイト

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